フェルデンクライスメソッド

フェルデンクライスメソッドは、物理学博士、武道家のモシェ・フェルデンクライス( Moshe Feldenkrais 1904 -1984 )が創始した学習システムです。1940年代に体系化されたメソッドは、心身全体としての調和と機能の改善を促す革新的なソマティックエデュケーションとして、イスラエル、北米はじめ欧州、豪州など世界的に広まりました。年齢、性別、身体の条件を問わず、誰にでも簡単に取り組める内容と目覚ましい好影響から、近年日本でも芸術、スポーツ、健康、リハビリテーション、特別支援教育、介護予防など多岐の分野に用いられています。

 

からだの動きの調和、バランスの調整、環境の変化への適応、柔軟性の促進、怪我の予防、慢性的な痛みや緊張からの解放、コントロールの改善、情緒の安定、健康増進、舞台芸術やスポーツ等の高度な技能とパフォーマンスの質の向上、そして何より各々の生き方をより快適に、満足感の深まるものにすることを助けます。

モシェ・フェルデンクライス(1904-1984)

欧州東部(旧ロシア)で生まれ、13歳のときに旅路1年をかけて単身パレスチナに移住。労働と地図製作などの仕事につく。サッカーなどのスポーツを愉しみ、民族闘争からの自己防衛として柔術を身につける。従来の柔術訓練では実際の戦闘で多くの負傷者を出した為、モシェは仲間と共に攻防手段の有効性を研究し、攻撃された際の初動反応を取り入れた独自の防衛術を開発した。「すべき」動作ではなく、自然に「している」動作を基盤に武術の稽古を積むことで、行動から躊躇をなくし、実戦の効果を高めた。フェルデンクライスメソッドに通ずる独特な見かたが既にこの頃から表れていた。

20代半ばでフランスに渡り、機械工学、電気工学の学位を取得。その後フランス、ソルボンヌ大学で物理学博士号を取得。ノーベル賞受賞者ジョリオ・キュリーの研究員として初期の原子力研究に携わる。フェルデンクライスは時代の先駆的な科学者のひとりだった。

在仏中には柔道の創始者、嘉納治五郎との出会いを機に、パリに柔術クラブを設立。1936年、ヨーロッパ初の柔道黒帯保持者となり、指導や著書を通して柔道を西洋に紹介した。1940年代初頭、イギリス海軍省で対潜水艦交戦におけるソナーを開発し、特許をとる。その後、心理学と神経生理学の勉強を続け、各分野への深い研究と考察は1949年にイスラエルに帰国してからのフェルデンクライスメソッドの開発に集約されていく。

 

メソッドの開発のきっかけは、完治しないと告げられたサッカーで負傷した膝を自ら治癒しようと試みたことにある。人間の動きや発達に関わるあらゆる科学的知識と試行錯誤の実験によって膝の回復に成功する。その後、雨の日に転んで再び膝を怪我してしまった時、彼は単に身体の局部を治そうとして、「一人のひとの全て」という大事な観点を見落としていたことに気づいた。

メソッドの根底には、ひとりの人物としていかに機能しているかを尊重し、既にしていることについて気づける環境と条件を用意すれば、それだけでひとは学びつづけ、発達をつづける、という信頼がある。フェルデンクライス博士の偉業は、注意を向けて動きかたをみるという、シンプルなからだの動きのレッスンを考案し一般的に提供したこと。自分と環境との相互関係で、持続と変化の可能性を知覚する機会をもたらし、個人的で具体的な各々の発見を感覚体験から可能にした。フェルデンクライスメソッドとは終わりなき学習のプロセス。

 

フェルデンクライスとは

フェルデンクライスメソッドは、脳神経システムが楽で面白く快い動きによって自らの組織機能を洗練させる能力を生かし、脳と身体のコミュニケーションを改善するアプローチです。

自分の学びかたを学ぶことができます。

 

発達段階の赤ちゃんは、動く感覚と環境との相互関係から自分と世界について学習します。自然発生的な学びにはいつ何を学ぶという計画がありません。目的への近道にこだわらず、面白いから探索し、一方向に努力をせず、好奇心の導くままにからだを動かし、休み、遊び、失敗し、驚き、それまでの体験と連絡し、新しい発見をし、何かしらの意味や価値へ繋がり、転がり、這い、立ち、歩くようになっていきます。赤ちゃんのように無理なく自然に身につける学びかたからは、大人も多くを学ぶことができます。

からだの学習は、感覚と筋肉と脳のあいだの情報交換によっておこる感覚運動学習です。動くと、骨を動かす筋肉の活動やからだの位置の情報が感覚器から脳に伝わり、脳は筋肉に修正した情報を伝えるという脳と感覚の間でのやり取りがおきます。意識的な努力がない快適な状態であると、少しずつ不必要な筋肉の緊張は除外され、動作が次第に効率化して協応する動作パターンがあらわれます。つまり筋肉の頑張り過ぎと努力を最小限に減らし、繊細な感覚の識別が可能になる条件が整ったときに限り、組織化をひとりでに改善する能力を引き出すことが可能です。

 

成長に伴って身につけた習慣的パターンの動き方、考え方、ふるまい方が自身にとって制限となることがあります。社会や文化の影響、怪我、心的要因などによってそれらは更に限定され、可能性が狭まり、固まり、生活のうえで制約や支障となって表れます。からだの動く感覚に注意を向け、無理なく動かすことを学び、習慣のパターンを固まった唯一のものから柔軟な組み合わせの一選択肢に変える可能性を引き出すことができます。

フェルデンクライスメソッドのレッスンは、からだの動作と姿勢を多角的に観察、探究する場を提供し、実際にからだを穏やかな質で動かし、微細な感覚の差異を感じとり、変化する知覚と身体感覚への気づきを深める機会を与えます。非生産的な緊張を緩め、協応性を高め、機能的な動きの改善を助けます。また、動きに伴う主観的な感覚に注意を向け、浮遊するイメージの焦点と背景を自由に動かせる視点を持つことでアウェアネス(気づき)は高まり、知覚することができる選択肢が変容します。アウェアネスの高まりは、自分の中のつながりと外の世界とのかかわりにディテールと奥行きを加え、意図と行動の最善の一致を可能にしていきます。

問いかけると見通しや感じかたは変わっていくものです。機能、構造、環境との関わりで相互作用する自分自身の既にしていることについて問えば、新しい感じかた、結びつき、繋がりが創発され、柔らかさ、自由さ、可能性の豊かさがあらわれます。身につく学習とは、身に覚えのない「こうするべき」ことではなく、もう既に実際に「している」ことにおいて行われます。

 

主観的な価値を見いだす学習は、心のなかで立体的に繋がり、連想を起こし、多層に連関を広げ、組織全体の働きを活性化し、全体に対して変化する柔軟性をもたらします。柔軟に生き、柔軟に機能すると、本来備わるポテンシャルはより最適に統合されていき、より心身の活動に充実感が深まることでしょう。動き、思考、感覚、情動にアウェアネスに高めることは生涯にわたり学習し、成長し、可能性を広げられる人になることです。

 

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